ライバルは26才

とり子は写真家の先生のアシスタントをしながら、もう一つ仕事をしなければならない。

おばさんなのに、フリーターだ。のんきな人生だ。気持ちは切羽詰っているのだけど。ちょっと背伸びをして就職活動に励む。もう、若くないのだし、何でもできるというわけにもいかない。自分の能力やその伸び代に限界を感じる中で、安定した就職先を選び、すでに3社から落とされている。

ふんだ。

そして、本日も面接だ。行けば一緒に面接を受ける人がもう1人いて、若い。

なんだよ~・・・いきなりやる気をなくす面接となってしまった。

面接官は二人、その女子にあれこれと質問をした。そのあと、オマケのようにとり子にも同じ質問をした。女子は熱く、なれた感じで的確に答え、とり子は手短に適当なことを言った。

そして次の日、まさかの私に採用の連絡が入ったのだ。

『はい?』とり子は不採用と思っていたので、このラッキーを聞いたときは信じられなかった。そっか~♪見る目ある~う!

先生は恵比寿神社でとり子の就職を祈願しておいてくれたそうだ。

『とり子くん、ぼくの祈願が利いたね~』

先生は得意気だ。でも、本当にそう思う。

事務の経験も無い中年女が、この辺りでは大きな規模の会社の、総務課に就職が決まったのだから。

私を選んで良かったと思ってもらえるようにがんばろう。

本日はとってもいいこと、起きました。

 

 

 

トラツグミ選曲

ツグミという鳥は冬になるとよく見かける。

田や畑、広い原っぱでつ、つ、つと歩く姿をとり子は飽きるほど観察したことがある。

先生に話すと『ツグミは歩かないよ、ちょんちょん、はねているんだ』と、言われたことがある。

さて、トラツグミ、という鳥は、ツグミよりまるまるとした鳥で、トラのような模様がある。

歩き方はかなり個性的だ。おしりをふりふり、体を上下させてダンスしながら歩く。

見つけてしまったら最後、その不思議な動きに目が離せなくなる。

バーダーさんは、よくトラツグミのダンスの動画におさめ、それに似合う曲をつけて投稿する。

この選曲には、投稿者のセンスがうかがえる。

せっかくのトラツグミのダンス、いい選曲のものもあれば、『ぜんぜん合ってないやんか~!!』と叫びたくなるものもある。

ダンスより、選曲のセンスに夢中のとり子なのだった。

 

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アトリエ

とり子はアトリエで板にニスを塗った。

昔この辺りは別荘地として開発が始まった。

たくさんの人が電気も水道も通っていない山の中に土地を買ったのだ。しかし、住めるようにするには、ここは少し手間もお金もかかりすぎただろう。とり子がこのアトリエに来るまでの道中には、建てかけたまま途中で放置されたような、ログハウスらしきものがたくさんある。もう持ち主はここに来ることは無いだろう、荒れ果ててどうにもできない。

とり子は知人が昔建てたログハウスを修復しながら、ここをアトリエとして過ごしている。

野鳥が豊富に見られる最高の場所だ。アオジがチッチッとすぐそばの藪の中で鳴いていた。買ってきた材木すべてに、防腐対策でニスを塗るのが、案外楽しい作業だ。

こういう生活が向いているのだろう。とり子は自分は孤独好きだな、いや、人間嫌いと言うのかもな、と考えていた。

夏は夜空を見上げながらビールを飲む。花火もした。バーベキューもした。

冬は暖炉で餅を焼き、お湯割の焼酎や梅酒を飲む。

星空はきれいで、朝陽は格別に崇高だ。

 

今日は新しく作った眼鏡を受け取りに行き、イメチェンしたばかりだ。

この眼鏡で、洗練されたキュートなとり子になろうとしたのに・・・

ニスを塗る姿はほど遠いかもね。

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雨降りは家におりましょか。

 

小さな幸せで人は幸せになれるのだろうか。

田舎に住んで、人生特に大きな事件も起きないし、この先、私は、大金を手にすることもないだろう。宝くじを買うことだってケチって節約してしまうんだから、当たる確立は皆無だ。

この人生は、はたして幸せなのだろうか。それとも、不幸なのだろうか。

う~ん。とり子は考えていた。

 

今日の幸せ

モーニングに食べた喫茶店のカフェモカが甘くて癒された♪

カーステレオに入っているバラバラでわかりにくいCD音楽を、曲名を入力して整理♪

寒い雨ふりだったけど、暖かく家で過ごせた♪

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鳥の宿命 ハッカチョウ

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朝夕に秋の気配を感じる10月。

とり子は住んでいる地区のクリーンキャンペーンに参加していた。

この辺りは程よく田舎だ。なんちゃって、本当はド田舎だ。

目の前には田んぼが広がっていて、いつもハトやカラスやサギ、ヒヨドリがいる。

季節によってイソヒヨドリやケリ、ヒバリなども見られる。

田んぼにいる野鳥をチェックするのは野鳥好きの日課にもなっている。

この日、草をむしりながら向けた視線の先には不思議な鳥の群れがいた。

カラスのように真っ黒な鳥たち。

カラスより小さくて、ハトほどの大きさだ。よく見ると羽の先に一箇所白い班がある。

とり子、こんな時はわくわくする。

見たことの無い鳥との遭遇なのだ。

すぐ近くで近所の男の人たちも、『あれ、カラスじゃないね、変わった鳥だなあ』と話している。

とり子はすぐに先生に電話した。

『先生、珍鳥です、早く来てください!』

先生はぜんぜん驚かない。『どんな鳥だい』

とり子の説明を聞き始めてすぐに、『それはハッカチョウというんだよ』と答えた。『そんなに珍しい鳥じゃないよ、今度連れて行ってあげるよ』

先生は数日後、時間を作ってくださり、姫路という町にとり子を連れて行ってくれた。広い河川敷は市民の遊歩道になっていて、その脇の工場の屋根に無数のハッカチョウがとまっていた。さすがにカーカーとは鳴かなかった。

カラスをはじめ黒い鳥というのはあまり『美しい鳥』とは言えない。

ハッカチョウは白い班があるだけで、かろうじて人間から嫌われずにいるのだろう。

とり子、鳥の持つ宿命というものを感じていたのであった。

 

 

 

ヤマセミ

とりこ、なぜか鳥に興味を持ち、鳥の写真を撮る先生のもとで鳥について勉強中。

現実は、アシスタントにもなれない、まだまだ素人なのだけれど。

先生は変わり者で、役に立てない私を怒りもしない。

いつだったか『私、褒められて伸びるタイプです』なんて言ったもんだから、

褒める要素を探すのに苦労しておられるだろう。

 

 

ダムにヤマセミの撮影に行った。

ダムの脇には湿地の林があって、そこに降り立つとヤマセミの撮影には絶好のポイントだ。ただ、ここに降りてくるまでには1メートルほどの小川を飛び越える。

とり子は何度えいっとジャンプしても、足が川にはまる。1メートルも飛べないのだ。

本当か?見た感じ、飛び越えられそうなのに、と、情けない。

先生も最初は『大丈夫かい?』と私の濡れた靴を気の毒そうに見たけれど、今は後ろで私がバシャッと水の音を出しても、振り向かなくなった。

ヤマセミは水の中にダイビングしては、枝にとまった。

 

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ひばりの巣発見

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とりのとり子。野鳥カメラマンの先生のアシスタント見習いだ。

新緑も濃くなり始める6月。

徳島県のとある神社にフクロウの撮影に行った。

神社の境内に大きな木があって、毎年フクロウが栄巣をする。

しかしこの日は確認できず。

しぶとく待つ、ということが苦手な先生は、あっさりあきらめるとすぐにポイントを変える。それはそれでまた違う出会いがあり、昔からの先生のやり方みたい。

先生は広い河川敷をようやく撮影ポイントに決めた。

ヒバリがたくさん、気持ちよさそうにホバリングしている。

『ここはヒバリの楽園だなあ。とり子くん、ひばりはこんな原っぱの草むらに巣を作るよ。探してみるかい?』

これは、しばし撮影に没頭したいのか、『探してくれ』なのだろう。

『はい、探してみます』

遠くをトラクターが草ぼこりをあげて地面を掘っているのが見える。

先生は三脚を立てて、何やら撮っている。

よし、ヒバリの巣を探すかな。

そして、程なくして本当にヒバリの巣を見つけてしまった。ウズラの卵のような、ヒバリの卵が3つ。うまく草の陰に隠れている。本当に、一度この場を離れたら、もう探せないだろう。

『先生、せんせ~、ありましたよ、巣が!』

『やあ~、すごいね、とり子くん。流石だなあ。ヒナがかえる頃に、撮影に来よう。

頭を使わないところで活躍できてしまう、とり子なのであった。